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asagao’s blog

ほぼ日記と雑記。読書メモは個人的感想でネタバレ含みます。

モンテ・クリスト伯 読書メモ16(ネタバレあります)

モンテクリスト伯 読書メモ

幸福がその訪れを知らせる。

心の扉を叩く音。


しかし、不幸に馴れたものは、その音に怯える。
信じることができず、考えられる最悪の事態を想定し、その扉を開けることを躊躇ってしまう。


どんなに不幸に馴れていても、信じなければならないときがある。

それが自分が敬愛する人の言葉であるなら、なおさらだ。


ダンテスも、不幸に馴れすぎていた。
ファリア司祭を敬愛しながらも、その言葉を信じることが出来ない。


ファリア司祭は宝の話をしなければと語りかける。

ダンテスは、病の為にファリア司祭が精神錯乱を起こしたと思い、話を遮る。

司祭は微笑し話を続ける。

「わしの気違いでないことを知っているあなたにだけ、聞いて欲しいと思うのだ。」※1

しかし、ダンテスは信じない。

なぜなら、

「それを信じなければならないことは、なんともおそろしいことなのだった。」※2

気違いの言葉を信じるものは、気違いの仲間入りというわけだ。

確かにそれを恐れるのは当然だ。
牢獄など、発狂と背中合わせの日常なのだから。


結局ダンテスは、逃げて自分の室に戻ってしまう。

ファリア司祭は半身不随のからだを引きずって、彼の室に訪れる。

伝えねばならない、その熱意のこもったファリア司祭の話。


宝の歴史が語られ、その正統な相続者と、それがモンテ・クリスト島に有ることが知らされる。
理路整然とした歴史の真実。



間違いない、真実だった。

今度は余りの幸福に信じることができない。
それどころか、その宝を辞退しようとする。

その時だ、この場面は胸に迫る。

「あなたはわしの息子なのだ!」※3

「主はあなたをわしに遣わされて、父親になれない男、自由になれない囚人、この二つを同時に慰めてやろうとなさったのだ。」※4


涙にくれる二人。

この場面で1巻は終了する。

冒頭の光りに溢れた船上のダンテスと、闇の中で剣を鍛えるごとく苦難に打ちのめされ、鋼の如く磨きあげられたダンテス。

対照的な一人の人物。

これまでの登場人物も決して少なくはないものの、見事に描き分けられている。

誰もが個性的で、どこかにいそうな雰囲気だ。

目に浮かぶような描写。それでいて複雑な修飾などはなく直接的な表現。

大衆小説らしい明快なストーリー。

ついつい自分勝手に解釈し、こういうこともあると納得し、感心し、悔しく思い、諦めるなと奮い立ち、絶望など捨ててしまえと思えるのだから、この本には価値がある。

わたしにとっては、読むたびに違う感慨を呼び起こす数少ない名著。

人生を重ねた分、深みを増す物語。

読んで生きる力を得られる本は貴重なのだ。



※1,2,3,4,アレクサンドル・デュマ作、山内義雄訳、モンテ・クリスト伯一、岩波書店より

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