モンテ・クリスト伯 読書メモ23

ダングラールの拒絶。

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悪人は恩に報いる事はない。
それこそ悪人の証と言わぬばかりに。


恩を知らずは恥を知らない。


己の醜さを知らない。


悪人の醜さは夜の闇でなければ隠せない。
かつて、ある文豪はそう書き綴った。

容姿の美醜よりも、ことさら嫌悪感を禁じ得ない生き方の醜さ。

それは確かに、夜の闇だけが隠してくれる。
夜の闇の中こそ悪人には相応しい。
栄光の光を浴びることは許されない。


ダングラールは恩人の窮地を知って、拒絶をもって報いた。

ダンテスは恩人の窮地を知るやいなや駆けつけた。

光と闇のような二人だ。



結末は、涙なくして読むことが出来ない。
私はこの章が大好きだ。

正しく生きたものが苦難の果てに、死さえ覚悟して己の信念を貫こうとする。
それが悲劇に終わらず、本来あるべき栄光を取り戻す所でこの章が終わる。

降り注ぐ日の光。

人々の笑顔。

遠く見守るダンテス。


さあ、なすべきことを成した。

「なさけよ、人道よさようなら…。」※1

ダンテスは、人としての感情をここで捨てた。

この台詞のラストは復讐の神に誓いを立てる言葉で終わる。

ダンテスは本来は優しさに満ちた青年だった。仲間思いで年長者を敬い、年少者を守れる人物だ。

それが、今後は氷のような面、刺し通すような視線、対するものを震え上がらせずには置かないミステリアスな伯爵、モンテ・クリスト伯となる。

ダングラール、フェルナン、ヴィルフォール。

彼らは、まさか復讐のため現れたダンテスとは微塵も気づかない。

足元から崩れ始める、砂の城。

逃げ場のない刑場。

すでに彼らは、目には見えないシャトー・ディフに囚われている。


※1アレクサンドル・デュマ作、山内義雄訳、モンテ・クリスト伯二、岩波書店。