疑惑。
さて、いてもたってもいられなくなったヴィルフォール。モンテ・クリスト伯の正体とその目的を探り始める。
それもすでに計算済みのモンテ・クリスト伯。
二人の人物に変装し、それぞれ証言する。
この周到な準備によって、再びヴィルフォールは安堵する。つまり、身の破滅を導く「油断」をする。
モンテ・クリスト伯爵の「まだだ、とどめを刺すにはまだ早い。」そんな言葉が聞こえてきそうな展開だ。
変装していた衣服を脱ぎ捨てる伯爵の描写は、苛立ち、怒り、執念を象徴している。
綿密な計画は、出口を狭めながら着々と進められて行く。
この章の興味深い言葉。
勲章に関する一言。
「人類の殺戮者にたいして与えられる褒賞にくらべて、人類への徳行に与えられる褒賞のほうがずっと好きだと申しております。」※1
一人を殺せば殺人犯、何万人も殺せば英雄などという理論はおかしいと言った人がいる。
確かに戦争の功労者と称えるのはおかしな事だ。
勲章は人道的な徳行にこそ相応しい。
そういった勲章の方が「私は好きだ。」と。
こんな率直な書き方をするデュマが私も好きだ。
世界は複雑な問題が絡み合っているが、
その解決の糸口は実は単純なのだと思う。
全ての人間が求めてやまない「幸福」。
好きだと言えるもの。
その幸福の実態は「平和」だ。
そして、更に個人に幸福を感じさせる事は「生きる意味」だ。
「無意味」こそ人間にとっての最大の不幸だと思う。
「無力感」。
「焦燥感」。
SNSの普及で、殊更幸福を演出する人々。
承認欲求の塊だ。
そして、演出された「架空の幸福」に踊らされる人々。
「不足」を感じ、それが「不幸」と錯覚する。
負のサイクル。
自分が不幸ではないのに、不幸だと錯覚する人が出てくる。
無差別殺人。
激しい憤り。
劣等感からの道連れ。
自分だけが不幸だという錯覚。
そういった錯覚を誘う情報達。
東日本大震災で沢山の人が亡くなった。
何故、その時自殺者も減ったのか?
多くの人が亡くなった時。
自殺を踏みとどまる人が増えたのは何故か。
苦しいのは自分だけではないという事実に気づいたからだ。
あの時は見せかけの華々しい幸福に惑わされなかったからだ。
現代の心の闇の原因はメディアにもある。
真実を見通す目を持たないと、架空の情報の中で人生を送る事になる。
※1アレクサンドル・デュマ作、山内義雄訳、「モンテ・クリスト伯」五 岩波書店