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asagao’s blog

日記と雑記、読書メモは個人的感想でネタバレ含みます。

モンテ・クリスト伯 読書メモ62

咆哮。
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盗みに入ったカドルッスとブゾーニ司祭に扮した伯爵の会話は面白い。
カドルッスの狡猾で卑怯な性格を表す言葉の数々。
会話の中で伯爵が一人であることを聞くと、一歩踏み出す様子はゾッとする。

会話の間一歩、一歩と近づき、説得出来ないと判断した途端ナイフを伯爵の胸に突き立てた。

恩人にナイフ。

これが、カドルッスの本質なのだろう。

ブゾーニ司祭の穏やかな口調は一転、激しく厳しいものに変わる。
腕をねじりあげ、床に倒れたカドルッスの頭をふまえながら言う言葉。
「悪党め、このままふみつぶしてもさしつかえないのだ!」※1
この後に続く言葉も厳しいものだ。

命乞いをするカドルッスに「それは神が決める事」だと言い聞かせ、邸から出るように窓辺に導く。

塀の外に待ち受けるベネデット。
怯えながらも、逃げ出せたことに喜ぶカドルッス。

その二人が塀の外で出会った瞬間、惨劇が起こる。

カドルッスは致命傷を負い。叫び声を聞いた伯爵が駆けつけた。

さあ、ここからが面白い。
死を前にした犯罪者と伯爵。

ベネデットに刺されたことに怒り、復讐を願うカドルッス。
その復讐を手助けしようとする伯爵の言葉に目を輝かせる。

更に「とうぜん罰を受けなければならないのに、しかもそれを受けずにいる人」※2がいることを「神の裁きなどない」と嘆くカドルッス。

それに対して、「見ているがいい!」※3
と咆哮する伯爵に瀕死のカドルッスが震え上がった。

更に「お前は助からない。」と宣告する伯爵に、「死にかけているものを絶望させる変わった坊さん」とカドルッスが呟く様子は、緊迫したシーンでありながらコミカルでデュマらしい。

人を殺すことに何の罪の意識も無いカドルッスが、自分の死を前に、子供の様に駄々をこねる。
「神などいない」「懺悔なんかするもんか」「摂理なんてあるものか」「なにもかも偶然」だと。

伯爵が答える。
「摂理はある」
そして、自分の本来の姿を見せた。

混沌とした意識の中で、伯爵の「おやじの墓に誓って」という言葉ですべてを悟ったカドルッス。

彼は神の存在を認めて絶命する。

「これで一人!」※4

復讐を誓った4人のうち、最初の1人がカドルッス。

ダングラールとフェルナンの犯罪を見て、知っていながら傍観した者だった。

その罪は巡りめぐって自らの上に落ちてきた。
これは、伯爵が仕組んだ物ではなく、人間関係から導きだされた運命だった。
むしろ、伯爵がダイヤを与えた時に、あるものに満足し感謝することが出来たなら幸せな人生を歩めた。

しかし、カドルッスにとってはそれは幸福ではなく、更なる欲を刺激する起爆剤となっただけだった。

結果としてカドルッスは、共謀者の裏切りによって刺殺された。

傍観した者は、伯爵の傍観によって死んだ。

伯爵はベネデットが待ち受ける事を知っていた、「知っていながら何故教えてくれなかった」とのカドルッスの問いにはこう答えている。


「わたしが!」と、伯爵は、瀕死のカドルッスがぞっとふるえあがらずにはいられなかったほどの微笑を浮かべて言った。(略)
「後悔してでもいたとしたら、」(略)
「だが、お前は、思いあがっていた」(略)「残酷であることにも変わりがなかった。それで、神様の思召におまかせしたというわけだ!」※5

自分の父に関わりのあったことに免じて3度までは救おうとした。
しかし、その恩人である伯爵の命を奪おうとした。
そこから先は、神=運命=摂理に任せたと。

デュマが言う「神」には、この世界を支配する「何か」、「法則」を示唆するイメージがある。

人生というものは面白いものだ。
短時間では分からない。
しかし、長い時間で見るとき、必ず人は生きてきた人生と対応する最後を迎える。
裏切りの人生は、裏切りによって終わる。

※1~5アレクサンドル・デュマ作、山内義雄訳、モンテ・クリスト伯六、岩波書店