メルエムとコムギ HUNTER×HUNTER感想
富樫義博の描く恋愛。
メルエムとコムギ。(若干ネタバレ含みます。)
HUNTER×HUNTER。
蟻編には複雑多岐に渡る心理戦と、社会の真実、善悪の二面性が描かれている。
語り出したらキリがない。
今夜は少しだけ、コムギについて書く。
コムギは女性の本質を表現している。
殺戮と闘争、孤独に苛まれる運命の元に生まれたのが男性の本質。
殺戮へと暴走する精神を押し止めるのは、圧倒的な他者の力ではなく、限りなく無力な女性。
欲もなく、野心もない女性。
何も持たず、何も望まない。
肉体的には一打で壊れる程の脆さ。
しかし、心は強く迷いが無い。
恐怖心がない。
嘘がない。
誰もが恐れ、疑い、偽る、この世界で。
ただ一人、自分に対して恐れず、疑わず、嘘偽りも無い。
その存在は自らを照らす光。
光を与える立場にある者に、唯一光を送る存在。
安息を与える場所。
この世界にたった1つの帰るべき場所。
男性が本能的に求める女性の本質とはこのようなものではないだろうか。
この物語のラストで描かれる二人の対話。
コムギは「幸せ」だと言う。
真実の女性にとっての最大の幸福。
それは、富でも権力でも無い。
地位、名誉でも無い。
自分が愛しいと思う男性から愛される事。
大切だと思われる事。
その存在を認められる事なのだ。
愛する人に人生を捧げられるのが女性の本質。
だから、コムギは心底幸福だった。
物語は悲恋に見えるかもしれない、しかし、二人は幸福な最期を迎えた。
いや、むしろ共に逝く事ができる事ほど幸福な事はないのだ。
世の中の男性は知るべきだ、女性がどれ程愛する男性の為に、自分の時間、自分の人生を捧げているか。
彼女たち、妻たちの多くは、物やお金を待っている訳では無い。
たった一言を待っている。
たった一言で救われる。
自分の存在を認め、自分を必要としてくれていると分かる言葉を。
「ありがとう。」
メルエムの発したこの一言は、コムギにとって、それまでの人生の苦しみ悲しみ孤独の全てを消し去る光。
闇が消え去る。
それまでの全てが報われる。
ささやかでありながら、最も大切な一言。
目の見えないコムギと、視力を失ったメルエムが手を繋ぎ、互いの存在を確かめる。
戦いの果てに、生きる意味を知ったメルエム。
生まれて来た意味は、愛することだと知った。
その「愛し方」を知らなかったメルエム。
答えは「感謝する事」。
存在を認め、その尊さに気づき、慈しむ事。
不思議な事に、ネテロの「心」や「感謝」に繋がって行く。
どうやら、富樫義博の描く世界は、読者が知り得ない程の伏線によって創られた世界らしい。
間違いなく、ここには哲学がある。
2017.10.3.改